働くとは|人気雑誌の哲学を紹介する。
「働かざる者食うべからず」とは聖書の一節から広く普及した言葉である。僕たちは人生の大半を「働く」ことに時間を割く。そして僕たちはその「働く」ことに対して色んな感情を持っている。死ぬほど働くことが好きな人もいれば、たったひとつしかない自らの命を絶ってしまうくらい働くことが嫌で苦痛な人もいるのだ。
今回、その「働く」ことについて世界中で人気のカルチャー雑誌「KINFOLK」の言葉を借りて考えてみたいと思う。正解も無いことだから、各々の中に何か「問い」みたいなものが残ったら嬉しいと思っている。
KINFOLKについて
今回取り上げるKINFOLKというのはネイサン&ケイティ・ウィリアムスという20代の夫婦を中心に作られたインディペンデントマガジン。独特の世界観を持つ雑誌で、食や暮らしを軸にした、僕たちの周りにある美しい景色を切りとった写真やイラスト、そしてテキストというシンプルなレイアウトで綴られている。
毎回のテーマで他とは違った視点で語られる内容は見ていて非常に気持ちが良いし、なんだか懐かしさを覚える。JAPAN EDITIONの第一号は日本の価値観について述べられていた。
成功とは、到達点である。
働くとは。
特に20代、30代は「成功」という言葉に向かって進む人も多いのでは。それが何を指すのかは人それぞれだとしても(大体が経済的な成功を指す)、その過程には本当に十人十色のストーリーが展開される。
成功とはある固定された到達点で、そこへ行き着きさえすれば、後の人生は楽に過ごせると思われがちです。しかし、現実の'成功'とは、さらに上を目指すためのチャレンジが待ち受けるスタート地点に過ぎないのです。
そうKINFOLKでは綴られていた。僕たちは確かに「成功」という世界に「楽園」を見ている。しかし、目指した到達点に到着した時、そこにあるものは決して楽園などではなくて、さらに上に目指すチャレンジが見えてくるという。
経済的な成功を収めた人が、その瞬間から堕落してしまうのが典型例だろうか。楽園を求めたはずがそこには楽園が無かった。人間は、進み続けなくてはならない。続けてKINFOLKではこう綴られている。
時間を費やしなさい。
仕事をしなさい。時間を費やしなさい。技を身につけなさい。そして、仕事で失敗してもパニックを起こさない。
とにもかくにも仕事をすること。それに時間を費やすこと。誰にも負けない(誰かに誇れるくらいの)技を身につけること。
現代はコンピュータの発達により、人間がしなくても良いことが増えてきている。しかし、まだまだ人間の技にかなわないものもある。そういったことを身につけていくことが大切なのだろう。
あくまでもコンピュータなどは「道具」であって、それを扱うのは僕たち人間。主従の関係を忘れてはいけない。それを忘れた瞬間、多くの場所で指摘されている現代科学のようにそれがあたかも絶対であるかのように暴走を始めてしまう。そうしない為にも、僕たちは、人間にしか出来ない技を身につけていかなくてはならない。
その過程にはきっと何回も何百回も失敗することだろう。しかし、決してパニックを起こさずに事実を見つめなくてはならない。その事実からの学びを真摯に受け止め、成功へと進むのだ。
全身全霊でひとつのことを学ぶこと
オーストラリアのファッションデザイナーであるクリストファー・エスバーはインタビューで次のように答えている。
若い頃"全身全霊でひとつのことを学び、それを極めなさい"というアドバイスをもらった
何かひとつの道を進み、極めなくとも'極めよう'とするその気魄は私たちの心を突き動かしてくれる。
最近はすっかり有名になってしまったが、僕はダンサーの菅原小春のこの動画に突き動かされた。
彼女は、僕からは'全身全霊をダンスに注ぎ込んでいる'ように見える。だから魅了されたのだと思う。
『人は関係ない、私のダンスはこう---。』そう語りかけてくるような気がした。
全身全霊で何かを学ぶという経験は、全員が全員出来るようなものでもないけれど、何か自分の中で「これ」と思ったことは、時間を区切っても良いし、一生涯続かないとしても「それだけ」の時間を取ってみたいものだ。
仕事とは「準備すること」である。
マルチインストゥルメンタリストのエスペランサ・スポルディングは
まずは準備、そして準備、さらに準備すること。そして行動に移すことです。
と言っている。仕事に必要なものは究極的にはこれだけなのだろう。イチローも「言い訳を排除する為に日々準備を怠らない」というし、良い仕事をしていくためには自分が思っているよりも質も量も「これでもか」というくらいの準備が必要なのかもしれない。
だが、たとえどれだけ準備をしていたとしても、上手くいかない時もあるし、同僚に先を越されることもある。特に同僚に先を越されたように感じる時の焦りや劣等感ほど自分を卑下してしまうものはない。
過度な競争心は自分を見失う
競争心によっていい仕事が出来ることもありますが、手に負えない状況に陥ってはなりません。そして、ときには難しいことですが、負けても気にしないようにしましょう。競争心でいっぱいになってしまうと自分を見失ってしまいますからね。
そう語るのは建築家のソフィー・ヒックス。確かに良い競争はより良い創造を生み出すが、悪い競争は相手を蹴落とすようなものとなってしまう。目的も良い仕事をすることから相手よりも上に立つものへとすり替わってしまい、心身ともに疲弊してしまうものだ。
負けを認めるのは本当に難しい。けどそこからどうするかが一番大切なはず。その為にはやはり「全身全霊」で、「全力」で事にあたる必要があるだろう。
私は誰もが全力を尽くすことが大切だと思っています。<中略>みんながそう思うことが出来れば、他人に対する敵意なんて芽生えないはずです。
ファッションデザイナーのチャーリーが語るように、日々日々全力を尽くしていくこと。それを他人には強要せずに背中を見せていくこと。
さあ、仕事をしよう。
美しい写真と共に語られる「仕事」について。他人を誹謗中傷するのではなくて、自身の仕事をより良いものにするために。たくさんのヒントが1冊に詰まっていた。
なにを感じるかは人それぞれ。僕は、感じたもので自分の中に問いを立て、自らの人生の糧としていけたらと思う。
そして今日も僕は、仕事をしようと思う。